あ。天使みたい。

窓の外にチラつく雪を見ながら儚げに微笑んでいる彼を見て、そう思った。
教団に来てから彼を度々見かけてはいたけれど、はっきりと見たのは今日がはじめてで。
雪と同じ色の髪。左目の星のペイント。イノセンスである左腕。
どこか他の人とは違ったものがある彼だけど、特にそれといって興味なんてなかったのに。

(なんで…私)

見惚れて、しまっていたのだろうか。
一緒にいたコムイさんに名前を呼ばれるまで、固まっていたから、多分そうだったのだ。
「アレン・ウォーカーです」さっきとは違う顔で笑う彼。
同じように自分も挨拶して、「今度は二人で任務に行ってもうからね」コムイさんの声を聞いて、他愛も無い話をして、「一緒に夕飯食べに行きませんか」誘われたけど断って。
二人のいる部屋を出て、自分の部屋まで走った。
こぼれる息は、白くて。冷たい風にさらされる頬は、赤くなっていく。

(こんな、これじゃあ)






(Blush Noisette #1)






恋に落ちたみたいじゃない。

なんて、錯覚してたのははじめだけだ。
今となっては、なんであんな風に感じていたのかの方が不思議なくらいで。
あの挨拶以来、彼 ―― アレンは、ちょくちょく私に話しかけてくる。
そのうち段々とアレンの腹黒い部分が見え隠れ(と、いうか全然隠れていなかったけど)して、神田やラビに対して毒舌を吐く彼に最初はビビッていたのに、全然平気になってしまった。
むしろ今では彼ら並に毒舌を吐かれるぐらいの仲にまでなってしまい正直困っている。
口答えをすると、きまって「何です。僕に向かって口答えなんていい度胸ですね」と、直接は言われはしなけどこんな感じの笑顔をされる。怖い。本当に怖い。
なのにアレンはリナリーだけには優しい。何があっても私みたいには接したりしない。
チクリ。胸が痛むけど、これは多分傲慢なアレンの態度にムカついているんだ。きっとそう。そうに決まってる。
だってもう。錯覚しようのないほどアレンの事を知ってしまったんだもの。



「あーもー!どうしようこれ。どうしたらいいと思うラビ!」
「俺に聞かれてもなー。てか話の内容全くわかんねえし」
「そんなこと言わないで!本当に困ってるの!」



だってだって、教団の中で私が仲良くしてるのは神田とラビくらいなんだもの。
神田にはこんな話できないし。むしろしたら絶対怒られるし。
ラビだけが頼りなんだよ!お願い私を救ってください!

土下座をする勢いで必死に頼んでみたら、そんな私を哀れに思ったのかラビは「しょうがねえな」とため息を一緒にそう言ってくれた。
ありがとう!ありがとう!貴方はもう神様ですね。仏様ですね。敬意を表してラビ様と呼んでもいいですか。え?本当には呼ばないよだって恥ずかしいじゃない。私が。
呼ばないのかよって、まあ。そんなに呼んで欲しいなら様付けで呼んでもいいけど。呼ばれて困るのは主にラビだからね。神田には鼻で笑われて、コムイさんには「そんなに偉くなったんなら任務の一つや二つ楽勝だよね」なんて言われて。アレンにはもっともっと苛められるようになっちゃうよ。
え?あ。うん。止めとくよ。心配しないで本当にはそんなことしないから。

「具体的に何に困ってるんさ」そう!それはね、なんだかこの頃アレンが近くにいると動機がすごく激しくなるし、アレンが女の子、あ、主にリナリーなんだけど、と話していると胸がグワッと締め付けられる感じになるんだよね。
は?いやいやいや。そんなことありえない!だってそれ、おかしいでしょ。



「私がアレンを好きだなんて、絶対ない!」
「でも。俺それしか考えらえないんだけど」
「確かに症状は恋をしている時に似てるけど。これは多分、アレンが怖くて近くにいると緊張してドキドキするんじゃないかなって。ラビもアレン見てドキドキするでしょ?」
「お、おま…。気持ち悪いこというな!ほら見るさ!鳥肌立ってきた!」
「行き成り背後に立たれた瞬間とか!……あああ!思い出しただけで心臓跳ねる!」
「聞けよ!じゃ、百歩譲ってそれは恐怖心から来てるものだとして、もう一つの方はどう説明する気さ」
「それがわかんないから困ってるの!」



お前逆切れすんなよ!つったって、日に日に増していくこの憤りが私をそうさせているんだ!



「あ!…あー…」
「え?何々?どうしたのラビ?」
「俺用事思い出したから、もう行くわ」
「はあ!?ちょっと待ってよ!」
「怒るなって。お前のそのイライラ解決する方法ちゃんと見つけたから」
「ホント!なあに!?」
「アレンに1回それ話してみたらいいさ」



じゃあ頑張れよ。頭を軽く叩いてから颯爽と走り去っていくラビ。
………え。それが出来ないからアナタに相談したんですけど!
全然問題解決してないし。よし。ここは覚悟を決めて言ってみるか!もちろん神田に!
蹴られようがシカトされようが当たって砕けてみよう!
よーし!そうとなったら早速神田を探して〜…。



。こんな所にいたんですか」



良く聞き慣れた、男の子にしては少し高めの声。
後ろから聞こえたけどこの声って。………いやいやいや!気のせい気のせい!
今お昼時だし。ピーク時だし。こんな所にいるのありえないし。
1人でテーブル占領して、その上の目一杯ある料理を恐ろしい程の速さで食べてる時間のはず。
さあ気を取り直して前にぜんしーーん!



「そのままシカトし続けたら怒ります」



くるりと回れ右して、目の前の彼に笑ってみる。
あは。すっごく頬引きつってるんですけど。青筋もめっちゃあるんですけど。
もう怒ってるじゃん。手遅れじゃない。わかってたけど、嘘つき!
嘘つきは泥棒の始まりなんだからね。あ。でもイカサマとか得意らしいからもうそうかもしれない。



「まだご飯食べに行ってなかったんだね!」
「白々しいですね」
「え?そんなことないよ。気のせいじゃない?」
「ラビにが困ってることがあるからって聞いたんですが」



何勝手に言っちゃってるんだよアイツ!ホンットふざけんな。
プライバシーの侵害じゃないですか、これ?
訴えてもいい?むしろ訴えるべきだよね!?
おちおち相談も出来ないなんて、なんて教団は危険な所なんだろう。これから私は悩み事を誰にも相談せず胸の内に秘めて生きていくしかない。信用できるのは自分1人!簡単に気を許しちゃいけないんだな!







ああ。彼の一言で一気に現実に引き戻される。
そうだこんな馬鹿なこと考えてる暇なんてなかったんだ。(でも後で絶対ラビを一発殴ってやる)



「何でもないよ。気にしないで」
「嘘ですね」
「嘘じゃないよ」
「ラビには言えて、僕には言えないことですか」
「うん。言えない。絶対」
「どうしてで……」



「あ!アレン君!!!」



その言葉をきっかけに、私は走り出した。あの時と同じように。
すれ違う瞬間「ごめんね」とリナリーに言って。
それだけのことなのに、胸がやっぱり痛む。私が逃げ出したあの場所で彼らはまた楽しそうに語りだすんだろうな。
嫉妬?独占欲?なんで?どうして私が。
関係ないじゃない。別に私の知らない所で誰が何をしていようがどうでもいいでしょ。
しょうがないもの。そんな所まで干渉できないもの。言いたくない。知らないで欲しい。こんな事考える私の心。

自室の前までやっと着いて、乱れた息を整えてから深呼吸をする。
走っているときの葛藤がまだ残っていたけれど、頭を左右に振って考えないようにした。
もう寝よう。鍵を開けて、ドアノブを掴む。するとその上から重なる手。

なんで…!



「なんで行き成り走り出すんですか!?」



後ろから抱きしめられた。彼もまた走ってきたんだろう、耳元で苦しそうな呼吸が聞こえる。
背中に伝わるほのかな暖かさ。それに浸っていると、もっと強く抱きしめられた。
苦しいのに、嫌じゃない。だけど嫌じゃないのにボロボロと私の目から大きな粒が落ちていく。
ああ!落ちるなよ!別に泣きたいわけじゃないのに。誤解されたらどうするの。



「……泣いてるんですか?」
「泣いて、ない」
「嘘つき。手に、雫が当たってます」
「じゃあ、泣いてるんじゃない」
「いじっぱり」
「どうせ私は、いじっぱりで、泣き虫で、わがままで、馬鹿で、あほで、可愛くないよ」
「うーん。ほとんど合ってるけど、一つだけ違う」
「(一つだけかよ!)」
は、可愛いですよ」



正面を向かされて、頬に額に目に降ってくるキスを素直に受ける。
目が合うと、優しく笑ってくれた。それにまた、見惚れる私。

(ばかばかばか!これじゃあまた繰り返しじゃない)

でも今度は、同じようにならないように。



「私ね、だぶんアレンの事が好きだと思うの」



そう告げると重なる唇。目を閉じて最後の涙を落とした。
「多分じゃなくて、絶対ですよ」離れた口からそう告げられ。






目を開ければ

私の好きな顔で微笑んでいた。










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アレン夢。ラビの口調がまったくわかんない。
retouch :07/08/14

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